column

コラム

「K-1 WORLD GP」12.3(土)大阪<コラム>ラテスクがサッタリ喰いの予感、KANAはオロールに苦戦?、軍司vsジュングァンは名勝負必至、初代バンタム級王座決定トーナメント=「K-1 WORLD MAX 2002」説…佐藤嘉洋さんが出場外国人選手を徹底分析

 12月3日(土)エディオンアリーナ大阪で開催される「K-1 WORLD GP 2022 JAPAN~初代バンタム級王座決定トーナメント」。2020年以降、新型コロナウイルスの影響で海外から外国人選手を招聘できない時期もあったが、今年6月の“K-1初の女子大会”「K-1 RING OF VENUS」から本格的に海外勢が参戦するようになり、8月のK-1九州大会・9月のK-1横浜アリーナ大会では続々と海外の強豪がK-1のリングに上がった。

 今回のK-1大阪大会では10選手が海外から参戦し、まさに「WORLD GP」の名に相応しいラインナップになったと言っていいだろう。このコラムでは国内外で世界の強豪と鎬を削ってきた佐藤嘉洋さんに、今大会の出場外国人選手の注目ポイントを聞いた。 

 今大会の初来日選手の中で、佐藤さんが最も注目している選手がマハムード・サッタリと対戦するステファン・ラテスクだ。ラテスクは10代でISKA世界クルーザー級王座(ジュニア)を戴冠し、プロのリングでも東欧を中心に試合を重ねてKO勝ちを連発。直近の試合(10月20日)にモルドバで行われた試合でもKO勝利を収めた。その端正なルックスと将来性を感じさせる戦いぶりから、現地では“GOLDEN BOY”とも呼ばれるなど、ヨーロッパで注目を集めているクルーザー級の新世代ファイターだ。

「僕が注目しているのはラテスクですね。まず体が屈強だな、と思いました。身長187㎝だからクルーザー級の中では長身という程ではないですけど、その分、筋肉がガッシリとしてて見るからに頑丈そうですよ。特に左右のフックは打ち出したら止まらないです。日本人が考える基本をまったく度外視したパンチの打ち方をしていて(笑)、一発一発に完全に体重を乗せ切ってます」

 サッタリは現Krushクルーザー級王者であり、今年4月のK-1無差別級トーナメントでも優勝。K-1・Krushのクルーザー級No.1に位置しているが、佐藤さんは「ラテスクはサッタリにとって手ごわい相手」だと分析している。

「屈強なラテスクの前進に対して、サッタリがどこまで対応出来るかがカギだと思います。映像を見る限りでは、ラテスクは相手の攻撃を潰すのが得意そうなんですよ。サッタリの攻撃力は抜群だから、対戦相手はサッタリの攻撃を潰せるファイトスタイルがないと厳しいんですよね。その点、ラテスクはサッタリにとって手ごわい相手になり得ると思います」

 その一方で佐藤さんは「僕の知る限り、90kgでサッタリより強い相手が見当たらない。それぐらい僕の中で『サッタリ幻想』がある」と語る。

「僕も現役時代にGLORYやイッツショータイムの欧州大会に出場しましたけど、向こうの花形の階級は80kg~90kgで、この階級にはスター選手がたくさんいます。当時のメルヴィン・マヌーフやグーカン・サキは、日本ではヘビー級で戦っていましたが、本来は90kgの選手で、全盛期の彼らは本当に凄かったです。でも、サッタリならあの頃のマヌーフやサキと戦っても勝ってしまうんじゃないかという強さがあって。それぐらい僕の中で『サッタリ幻想』はありますね」

 外国人選手同士のハイレベルな試合はK-1の醍醐味。佐藤さんも「ラテスクのフックは諸刃の刃で、相手にダメージを深く与えられるパンチで危険な攻撃なんですけど、同時にラテスク自身もかなり消耗すると思います。3Rを通しての総合力では、まだサッタリが上かもしれないですけど、ラテスクは『大物喰い』する可能性があります。サッタリvsラテスクは要注目です」と期待を寄せている。

 ヨーロッパで実績を残す選手としてはK-1女子フライ級王者KANAと対戦するオロール・ドス・サントスも注目だ。オロールは171㎝の長身を誇り、2019年にはEnfusionの女子ストロー級(52kg)王座を獲得。GLORYにも参戦経験があり、GLORY女子バンタム級(55kg)王者ティファニー・ヴァン・スーストとベルトを争ったサラ・モサダックと拳を交えている。佐藤さんはK-1女子大会でのKANAの好調ぶりを認めつつ「オロールはKANAにとって相性が悪い相手」と読んでいる。

「KANA選手は6月の『K-1 RING OF VENUS』でのタイトルマッチ、あのKOは見事でしたね。不調が続いていたのでちょっと心配していたんですが、完璧なKOで復活したなと思いました。ただ、KANA選手のこれまでの試合を見てると、自分よりも身長が高くて、リーチの長い相手は苦手そうだな、という印象があるんですよね。そのうえでオロールの試合映像を見ると、結構アウトボクシングで、遠目からひょいっと出す鋭い右ストレートがガードの間から入ってきて、鬱陶しそうだな、と。

 KANA選手は、ガードの仕方がおでこを前に出して上目づかいにして、両手を少し横向きに置いてるんですよ。だから左右のフックは確実にガード出来るんですけど、ストレート系のパンチはおでこで受ける。オロールの遠目からの鋭い右ストレートを受けた時に大丈夫かな、というのはありますね。オロールが打ち合いに来てくれればKANA選手の得意な形になるんですけど、素早くヒットアンドアウェーで来られると、KANA選手が追っていっても間に合わないかもしれない。相性は、前戦のマンフレディ選手に比べたらだいぶ悪いと思います」

 ただし、これはあくまで技術の相性的な部分での話だ。実際の試合では一瞬のチャンスを逃さない勝負勘やセオリーを超えた爆発力が勝負を左右することは大いにある。佐藤さんも「相性はよくない相手ですが、前回の『神懸ったKANA』がそのままの調子で来れば、オロールはKANA選手の敵ではない。相性が悪かろうが『K-1女子のエースは私だ!』と示してくれると思います」とKANAの底力に期待を寄せている。

 来日経験がある選手の試合で、佐藤さんが名勝負を予想しているのがK-1フェザー級王者・軍司泰斗vsワン・ジュングァンのスーパーファイトだ。佐藤さんはK-1王座戴冠&世界最強決定トーナメント制覇を成し遂げた最近の軍司を「数年前の軍司選手はムラがあって、いい時と悪い時の差が激しいなと思って見ていました。でも後輩の新美貴士との試合(2021年9月)から安定した強さを見せてますよね。今の軍司は本当に強いと思います」と高評価。

 ジュングァンについても「彼もONE Championshipで経験を積み、2019年に武尊選手とやった時と比べると確実に強くなっています。8月の世界最強決定トーナメント一回戦で新美とやった試合を見ても勝負強いし、絶対に諦めない気持ちの強さを持っている。正直、この試合に関しては勝敗も分からないですし、ただ『ものすごく噛み合うだろう』っていう期待感は相当ありますね」と語った。

 初代バンタム級王座決定トーナメントの注目選手は、やはりタイのヨーシラー・チョー.ハーパヤックだ。ヨーシラーは選手層の分厚さで知られるムエタイ軽量級で3年間無敗の記録を打ち立て、ルンピニー・ラジャダムナンの“ムエタイの2大殿堂”に次ぐオームノーイスタジアムで王座も獲得した超強豪。公開練習でのミット打ちを見て、佐藤さんは「あのミット打ちを見ただけで『ただ者ではないぞ』と思いました。ミットを蹴る時の軸の強さとか、重心の掛け方が、一流の選手ならではの体の使い方をしているんです。ヨーシラーは完璧に『一流のムエタイ戦士』です。しっかりと蹴り込んできたファイターが蹴るミドルキックなんです。見ていて、こっちも勉強になります。相当強い選手だと思いますね」という。

 ヨーシラー以外にも赤道ギニア(アンビ・エンスエ・アボモ)、エクアドル(オスカル・ボルケス)、アルメニア(サンベル・ババヤン)と、これまで馴染みの少なった国の選手が多いことにも触れ「今回は色々な国から、僕ら関係者でも初めて見る選手を発掘してきたので『実際にどれぐらい強いのか?』が全然分からないです。だからある意味、初回のK-1 WORLD MAXでアルバート・クラウスが無名の存在からいきなり優勝して、1人のスターが生まれたじゃないですか。あの状況に似ている気がします」と続けた。

 続々と海外勢が参戦している現在のK-1を「階級が増えたことも大きいと思います。世界中のキックボクサーに活躍の場を与えているわけですし、世界中のプロモーターとのネットワークも広がっているということですよね。これを2年、3年と続けていくと『一つの国から一人の代表選手が参加する世界トーナメント』や、国際色が豊かで面白いトーナメントになるんじゃないか、という期待があります」と話す佐藤さん。K-1のリングで海外のニュースターが誕生する瞬間を見逃すな!
チケット購入